原点　〜1993〜｜ess（エストスーパースクール）代表石橋から皆様へのご挨拶

大学３年の３月。リョウは、中２の終わりにやってきた。

塾長からは、「高校に受からせようとか、そこまで考えなくていいよ。あいつの人生の中でこれから勉強することなんてないかもしれないから、少しでも勉強をするという経験をさせてあげてくれ」と言われた。
「はい」と返事をしながら、心の中では「絶対に高校に受からせてやる」と誓っていた。

リョウは、本当に勉強が嫌いで、はじめて塾に来るまで本当に何もやっていなかった。
通知表も２０に届かない。でも、決して頭が悪いとかやってもできないとか、そんなんじゃなかった。頭の回転は速い。ただ、勉強が嫌いなだけだった。
一人っ子で甘えん坊。大人と話をするのに慣れていて、大人と対等に話すことができる子だった。リョウと話をしていると、本当に楽しかった。
お父さんはお医者さん。もちろん、リョウにも大きな期待がかかっていたけれど、ヤツには、それを受け止めることができなかった。その期待から逃げていた。
塾に来ても、リョウの勉強嫌いはまったく改善されることはなかった。

でも、半年がたち、中３の夏前には、毎日塾に来るようになっていた。けれど、塾に３時間いても、勉強するのはそのうちのせいぜい１時間足らず。それでも、全くやらなかった頃と比べれば、少しずつ頑張ることができるようになっていた。
夏が過ぎて秋になった頃、高校の推薦がもらえないことが決定した。専門学校の推薦しかもらえなかった。確かに中３になってから、ヤツなりには頑張っていたけれど、それまでの遅れを取り戻すほどではなかった。それまでの成績があまりにも酷過ぎた。
間に合わなかったのだ。

一般入試で合格するしかない。推薦をもらえなかったことで、消えかかっていたやる気を奮い起こしながら、なんとかギリギリのところでリョウは踏ん張っていた。何度、泣きながら逃げていったか分からない。そのたびに家まで行って話をして、何度も何度も話をして、なんとか繋ぎとめることができていた。
そんなとき、「推薦の枠が空きました。リョウ君を推薦することができます」一般入試へ向けて、リョウもようやく受験生らしく、本当に頑張ることができるようになっていたときだった。

僕は、このままリョウに頑張らせてやりたかった。
努力をすること。自分の力で未来を切り拓くこと。結果はどうであれ、自分の目でそれを確かめること。この経験を、リョウにさせたかった。ヤツにはそれが絶対に必要だった。学校から言われた推薦の高校は、このまま一般入試で受けても間違いなく大丈夫なレベルだった。
でも、リョウはもう勉強をしたくなかった。これ以上、苦しい思いをしたくなかった。目の前の嫌なことから逃げてしまう、１年前のリョウに戻っていた。
リョウは、その学校の推薦をもらって、本格的な受験シーズンを迎える前に、ヤツの受験勉強は終わった。もちろん、塾も辞めることになった。

春になって、リョウはその学校に入学し、半年後に退学をした。盗んだ原付で車にぶつかって、そのまま逃げたとヤツの友人から聞いた。

そうではないのかもしれない。けれど、あの時の僕は、自分のせいだと思っていた。
悔やんで悔やんで、自分のしてきたこと全てを否定した。

今でも時々、思い出す。あの時、こうすればよかった。あの時、ああしてはいけなかった。
次は、後悔のないようにしよう。今度は、必ず笑って別れられるようにしよう。
いつも、そう思っている。

僕は、今日、キミが僕に言った「はい」という言葉を信じよう。たとえ、裏切られても、信じ続けよう。

そして、未来は、自分の手で切り拓くんだということを、伝え続けよう。